『僕だけがいない街』1巻から惹かれた理由と作品の魅力

水彩の青と淡いオレンジが重なり、時間の流れや記憶を思わせる抽象的な背景に『僕だけがいない街』のタイトルを配置したイラスト

『僕だけがいない街』は、主人公・藤沼悟が、時間が巻き戻る現象「リバイバル」に巻き込まれていくサスペンス漫画です。漫画家を目指しながらも思うような結果を出せずにいた彼は、現在で起きた出来事をきっかけに18年前の小学生時代へ戻り、過去の事件と向き合うことになります。

私が1巻から強く惹かれたのは、事件の謎だけで物語を進めないところでした。母・佐知子と過ごす日常や、過去で出会う雛月加代との関係まで丁寧に積み重ねられ、誰かを救うために行動する姿にも次第に引き込まれていきます。なぜ1巻からページをめくる手が止まらなくなったのか、その理由を振り返ります。

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事件の謎より先に悟の物語へ惹かれた

1巻では、悟の意思とは関係なく時間が数分前へ巻き戻る「リバイバル」という不思議な現象が起こります。

印象に残ったのは、そんな不思議な力を持ちながら、悟が特別に強い主人公ではないところでした。思うようにいかない人生を送っていた一人の青年が、大切な人を守るために過去と向き合い、自分にできることを探していきます。私は、そんな等身大の主人公だからこそ応援したくなり、物語の続きを読みたくなりました。

悟と佐知子の程よい距離感が心に残った

読み始めて最初に好きになったのは、悟と母・佐知子の距離感でした。二人の関係には、親子の愛情を分かりやすく説明するような場面ばかりが用意されているわけではありません。それでも、普段の会話や佐知子の振る舞いを見ていると、息子をよく見ている母親だということが伝わってきます。

佐知子は洞察力が鋭く、悟が見落としていることにも気づきます。それでいて、必要以上に息子へ踏み込むような人物ではありません。大人になった息子と母親だからこその程よい距離があり、その自然な関係を身近に感じました。
だからこそ、悟の日常が大きく変わったとき、それまでの何気ない時間まで違って見えてきます。特別な出来事ではなく、一緒に食事をしたり言葉を交わしたりする普通の時間が、実は失いたくないものだったと気づかされました。

そして悟は、一つの出来事をきっかけに、1988年の小学生時代へ戻ります。そこで少年の姿になった悟は、当時起きた連続誘拐殺人事件を防ぐため、未来を知っている自分に何ができるのかを考えながら行動し始めます。

私が胸を動かされたのは、悟が最初から強い人間ではないからです。過去への後悔を抱えたまま生きていた青年が、もう一度与えられた時間の中で自分から行動する。その必死さを見ているうちに、いつの間にか悟と一緒に「今度こそ救ってほしい」と願いながら読んでいました。

加代を救おうとする姿から目が離せなかった

過去へ戻った悟が救おうとする一人が、同級生の雛月加代です。彼女は周囲との間に距離を置き、学校でも一人で過ごすことの多い少女でした。悟はこの先に起きることを知っているため、加代が事件に巻き込まれる前に助けようとします。

ここで面白かったのは、悟が犯人捜しだけに集中するのではなく、加代自身と向き合おうとするところです。彼女と話し、一緒に過ごす時間を増やし、孤立した状況から連れ出そうとします。事件を防ぐために始めた行動が、少しずつ一人の少女の日常を変える行動にもなっていきました。

大人の記憶を持つ悟にも、子供の体ではできることに限界があります。警察のように捜査することも、大人の権限で周囲を動かすこともできません。だから友人に協力を求め、自分にできる方法を考えながら動き続けます。

こうした悟の行動を見ていると、時間を戻って事件を防ぐことだけが、この作品の面白さではないと感じました。未来を知っているだけでは何も変わらず、周囲の人と関わりながら自分で行動していく姿にも惹かれます。

1巻を読み終えたあと、私はそのまますぐに2巻を読み始めました。事件がどうなるのかという緊張感に加えて、悟と加代の関係や、少しずつ変わっていく周囲の人たちとのつながりも気になったからです。誰かを救おうとする行動が新しい関係を生み、その積み重ねが物語を動かしていくところも、この作品を読み続けたくなった理由です。

『僕だけがいない街』と『サマータイムレンダ』は何が違う?

『僕だけがいない街』とよく似たジャンルの漫画として挙げられるのが、田中靖規さんの『サマータイムレンダ』です。どちらも時間をやり直しながら大切な人を救おうとするサスペンスですが、主人公の行動や物語の進み方には違いがあります。

『僕だけがいない街』が人との関わりを通して過去を変えていく物語なら、『サマータイムレンダ』は繰り返す時間の中で得た情報を生かしながら、少しずつ状況を変えていく物語です。同じタイムリープを扱いながら、それぞれどのような違いがあるのか比べてみます。

未来を知っていても大切な人を簡単には救えない

『僕だけがいない街』と『サマータイムレンダ』は、主人公が時間をやり直し、大切な人を救おうとする点が共通しています。ただし、過去へ戻ったからといって、起きる出来事を簡単に防げるわけではありません。すでに知っている未来を手がかりに、「次はどうすれば救えるのか」と考えながら行動するところに、両作品ならではの面白さがあります。

限られた力で動く悟と何度も答えを探す慎平

悟と慎平(サマータイムレンダ)では、過去へ戻ってからの動き方に大きな違いがあります。悟は小学生の姿ではできることが限られているため、加代に寄り添い、友人たちの力も借りながら事件を防ごうとします。

一方、慎平は、ループするたびに分かったことを次の行動へ生かしていきます。前回の失敗を避けたり、新しく得た情報から別の方法を試したりと、何度もやり直しながら少しずつ状況を変えていくところが悟との大きな違いです。

じっくり引き込む僕街と畳みかけるサマータイムレンダ

『僕だけがいない街』は、過去に起きた事件を防ごうとする緊張感に加えて、悟と加代、母親や友人たちとの関係も丁寧に描かれています。事件の真相を考えながら、登場人物の気持ちや関係の変化にも引き込まれるサスペンスです。

一方、『サマータイムレンダ』は、島で起きる不可解な出来事から謎が次々と広がり、SFや伝奇、アクションの要素も強くなっていきます。『僕だけがいない街』のタイムリープやサスペンスが好きで、さらに展開の速い物語を一気に読みたい人なら、『サマータイムレンダ』も楽しめると思います。

僕街は人を振り返りサマータイムレンダは伏線を振り返る

『僕だけがいない街』を読み終えたあとは、事件の結末以上に、悟が過去で関わった人たちとのつながりが印象に残りました。時間をやり直したことで誰の人生がどう変わったのかまで描かれているため、最後まで読むと1巻から積み重ねてきた出来事をもう一度振り返りたくなります。

一方、『サマータイムレンダ』は、何度も繰り返される危機や次々と明らかになる謎を乗り越えた達成感が強く残りました。伏線がどこにつながっていたのかを確かめたくなる場面も多く、結末を知ったあとに最初から読み返す楽しさがあります。

人とのつながりや救われた未来をじっくり味わいたいなら『僕だけがいない街』、緊迫した展開と謎がつながっていく爽快感を楽しみたいなら『サマータイムレンダ』。
同じタイムリープを扱ったサスペンスでも、読み終えたあとに残るものはそれぞれ違いました。

初読は事件を追い再読は人を見る私の読み方

『僕だけがいない街』は全8巻で本編が完結し、その後に本編で描き切れなかった人物たちを扱う9巻が刊行されています。物語の結末まで知ってから1巻へ戻ると、初読では何気なく通り過ぎた会話や人物の行動にも目が向くようになりました。

最初は事件の先が気になって急いで読んでいた場面でも、読み返すと登場人物が何を見ていたのか、なぜその行動を取ったのかを考える余裕が生まれます。初読と再読で楽しみ方が変わることも、最後まで読んで好きになった理由の一つです。

私にとって『僕だけがいない街』は、犯人や犯行を推理するだけのサスペンスではありませんでした。過去に戻った悟が、かつて見過ごしてしまった人の孤独に気づき、その人を救うために行動する姿や、そこから変わっていく人間関係にも惹かれました。

時間が巻き戻る「リバイバル」を軸に、事件の謎と人間ドラマの両方を楽しめる作品です。本編は全8巻で完結しているため、先が気になるサスペンスを最後まで一気に読みたい人にも向いています。

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